知的資産経営が活かされる場面:③資金調達・事業性評価編
「知的資産経営が活かされる場面」の第三回目は、資金調達・事業性評価についてです。
経営においての資金調達は常に経営者の悩みの一つに挙げられる問題です。創業・起業時の資金不足、事業運営時の運転資金や設備資金はその代表格で、経営者にとって多かれ少なかれ資金繰りを考えないことはないでしょう。
資金調達方法は様々あるでしょうが、今回取り上げるのは金融機関に対する資金調達です。知的資産経営は、従来の財務諸表による融資判断だけに頼らない、新しい融資判断となる事業性評価という分野で活かされています。
従来の資金調達と知的資産経営
最初に、従来の財務諸表による融資判断と知的資産経営の関係はどうなっているのでしょう。
金融機関から借入を行いたいとするとき、もっとも重要になるのが財務諸表です。過去3年~5年の財務諸表を金融機関に提出し、それを基に金融機関は格付けを行い、融資を行うのか、行うのであればどれだけの金額かを判断します。もちろん経営者とヒアリングは行いますが、ヒアリングの内容で融資判断や金額を決めさせようとするなら、高い交渉力が求められるでしょう。
このような従来からの融資判断において、知的資産経営は借入時という時点では残念ながら効果を発揮できるとは言えないのが現状です。
むしろ借入時ではなく、借入後に金融機関とコミュニケーションをとる中で、借入に関する事業の説明に知的資産経営を活かすことで、返済スケジュールを有利にしたり追加融資につなげる、といった活用法が現実的になっています。
つまり、財務諸表そのものの説明ではなく、財務体質の改善や事業の安定した継続に対して、根拠を持たせた説明をする際に効果を発揮するというのが知的資産経営となります。
事業性評価と知的資産経営
では、新規に資金調達を行いたいというタイミングでは、知的資産経営は活かされないのでしょうか。
この疑問に答えるのが、事業性評価という考え方です。
平成26年9月、金融庁より「金融モニタリング基本方針(平成26事務年度)」が発表され、この中の重点施策とされたものが事業性評価です。これによると、事業性評価とは『銀行等が財務データや担保・保証に必要以上に依存することなく、事業の内容、成長可能性を適切に評価し、融資や助言を行うための取組み』だということが分かります。
つまり、金融庁は全国の金融機関に対して、従来からの財務諸表による融資判断から、資金調達したいとする企業の事業そのものや今後の成長の可能性を評価して融資の判断をしてください、と言っているわけです。そして、ちゃんと事業性評価によって融資を行っているかモニタリングしますよ、とも言っているわけで、金融機関は事業性評価を取り入れる流れになりました。
事業性評価は、企業の事業にどのような強み・弱みがあって、それが売上に繋がっているのか・いないのか、将来にわたって成長していくのか分析して評価します。そして、この事業性評価の分析に有効なのが知的資産経営です。財務諸表からは見えない部分を見える化させる知的資産経営において、事業性評価は特に相性の良いものです。
ただ、このコラムを書いている平成31年4月現在では、事業性評価を実施したのは当事務所で未だ数件程度です。金融機関から事業性評価をしてほしいとのご依頼があっても、まだまだ積極的に融資判断として活用されているとは言えません。
これは個人的な考えですが、融資判断において財務諸表が中心であることは今後も変わることはないでしょう。数字という分かりやすさもありますが、企業が過去に積み上げてきた「結果」は重要視されるべき基準です。そのうえで、現代の予測が難しい経済状況の中で、企業がどれだけ安定して持続可能な経営を続けられるかについても判断材料としなければならない時代となっています。事業性評価は、まさにその部分を評価するものです。事業性評価の積極的な活用が必要とされています。